書評『入門 ビットコインとブロックチェーン』 野口悠紀雄 著
ブロックチェーンを活用する事業は、経営者がいない事業です。これが、新しい組織の形である「DAO」です。これは、「分散自律型組織」(Decentralized Autonomous Organization)の略です。
これは、「経営にブロックチェーンを活用する」ということではありません。ブロックチェーンを活用することによって、そもそも「経営の必要がない」「経営者がいなくてもよい」組織が生まれるということです。
情報技術の進歩によって、人間の職が奪われる懸念は、否定できません。
しかし、それはコンピュータと人間の戦いではありません。人間の仕事が全て奪われるわけではありません。
人間がコンピュータをうまく使うことによって、人間でなければできないような仕事に特化していくことが可能です。働き方改革の究極の姿は、そのような世界を実現することです。
DAOにおいては、人間にしかできない仕事が労働者の仕事の中心になるでしょう。創造的な仕事はその一例ですが、それだけではありません。人間らしい仕事に専念して、働く喜びを実感できるような働き方が可能になるはずです。
AIやブロックチェーンがあるからこそ、人間はより人間らしい仕事ができるということです。コンピュータが得意な仕事はAIやブロックチェーンに任せ、人間は人間にしかできない仕事をする。
これまでのインターネットに欠けていたものを、我々はいまブロックチェーンによって手に入れようとしています。
ブロックチェーンの世界においては、人や組織を信頼する必要がありません。
相手が大企業だから信頼できるのではなく、ブロックチェーンの仕組みで真正性が保証されているから信頼できるのです。こうした世界では、零細企業も個人も、大企業と同じように資金調達や事業を展開することができます。組織の大きさに起因する不公平は消滅します。政府や大組織の決めたルールにただひたすら従うしかなかった世界からの脱却が可能となったのです。
今後、様々な新しいアイデアが実現されていくでしょう。これによって、社会の様々な主体が、第三者を介せず、直接に取引を行うことが可能になるでしょう。
IT革命は、ブロックチェーンによって完成されることになります。
1. この本はどんな本か?
タイトルにもありますが、仮想通貨の一つであるビットコインとその基盤となる技術であるブロックチェーンについて、Q&A形式で平易に解説されている本です。これらの言葉について、本当に何も知らない場合の最初の1冊に選ぶのには良いと思います。
本の前半はビットコイン、後半はブロックチェーンについて解説されていますが、それぞれのパートの後半部分については、既にビットコインやブロックチェーンについて知識がある方でも参考になるところがあると思います。
個人的には第3章の「銀行が仮想通貨を発行する」、第7章の「IoTとブロックチェーン」、第8章の「分散自律型組織DAOが作る未来社会」の章は興味深く読みました。
今回は第8章から引用しています。
2. 経営の必要がない組織
DAO(Decentralized Autonomous Organization)は、「分散自律型組織」と訳されます。これはブロックチェーンでスマートコントラクトを運営することにより、自律的に事業が運営される、というものです。
DAOについては例を紹介した方が分かりやすいでしょう。例えば下記のようなスタートアップ企業が登場しています。
近い未来、ブロックチェーンによって「会社」は消える-ジャック・デュ・ローズの視点
この「Colony」というスタートアップ企業は、クラウドソーシング、つまり、仕事を依頼したい企業と、仕事を受注したい個人をつなぐ、いわゆるマッチングのためのプラットフォームを提供しています(ただしまだ実験段階)。
プラットフォームを提供する、という点では既存のクラウドソーシングサービスと同じように思いますが、異なる点は、「仕事に対する貢献度が、その仕事への参加者間の投票により評価される。その結果を受けて報酬(独自のトークン)が決定されるという民主的なシステム」を採用しているということです。
「どういう仕事なら報酬はいくら」、というのが最初から決まっている従来の仕事とは異なり、理論上はプロジェクトへ貢献すればするほど、もらえる報酬の額が大きくなる可能性があることになります。
その結果、仕事を受注する側のモチベーションも高くなり、仕事の質が上がったり、短納期化することなどが想定されます。
また、従来の場合、複数のメンバーで一つの仕事をプロジェクトとして進めていく場合、人によって頑張る人と頑張らない人(いわゆる「タダ乗り」)に分かれることがあります。
一方、ブロックチェーンを用いたこのColonyのシステムでは、「仕事に対する貢献度を参加者が投票する」という設計になっているため、サボっていると評価されず、報酬がもらえません。従って「タダ乗り」の問題が発生しにくくなると考えられます。
Colonyを例にとって簡単に説明しましたが、「マネージャーが管理しなくても仕事が進む」仕組みになっている、ということがお分かり頂けましたでしょうか?
・頑張れば報酬が上がるというインセンティブ
・あらかじめ「不正しにくい(サボりにくい)」システムになっている
上記2点から、仕事の受注者間だけで仕事の進捗が管理されるのです。これがマネージャーや経営者が不要になるというDAOの特徴です。
そしてもし、このColonyのような仕事の進め方、つまりDAOという組織形態がこれから普及するとすれば、今私たちが働いている会社や組織のあり方は大きく変わってくることになります。
時計の針を10年、20年単位で進めて想像してみると、あらゆる仕事はプロジェクトの単位に細分化され、世界各地からメンバーをその都度募って進められるようになるのではないかと思います。
経営者やマネージャーがいらなくなるということは、今あるピラミッド型の階層構造の組織形態をとる必要がなくなる、ということでもあります。
人に管理されなくても、否応なしに、個人は自発的に自己管理が必要になる(そうしないと稼げない)という状態になります。
それだけ聞くと、ネガティブなイメージを持たれるかもしれません。でも、自発的な自己管理ができるようになると、オン・オフのメリハリがつけやすくなるので、オフの時間にやりたい事を今よりももっとできるようになると思います。従って人生の充実度も上がるでしょう。
また、クラウドソーシングと聞くとどうしても、PCがあればどこでも仕事ができるIT系の職種の人しか利用できないもの、と考えがちです。ですが、身体を動かす必要のある仕事も、今後はロボット、人工知能、VR(仮想現実)などの技術の進歩により、家に居ながらでもできるようになるでしょう。そうなると「自宅にいながらグローバルに働く」というのも夢ではなくなります。
これまでは、個人事業→中小企業化→大企業化と、事業規模が拡大するにつれて組織の規模も大きくなってきましたが、これからは逆の流れ、大企業→中小企業化→個人事業化という方向に向かっていくのではないかと思います。会社の肩書きではなく、個人として仕事を受け、活躍できる時代です。
事業規模が拡大したとしても、全体の進捗管理はブロックチェーンのシステムに任せてしまうことになるため、あえて大規模な組織を作る必要性やメリットがなくなります。むしろ組織化する方がコストがかかる、ということになります。
なお、本書の著者は、将来、マネジメント的な仕事や事務処理的な仕事はブロックチェーンに任せて、肉体労働はロボットやAIに任せる、という方向に進んでいく、と予想されています。
3. その時、何をするか?
「煩雑な事務処理や面倒な管理業務、そして大変な肉体労働からも解放されるようになる。万歳!」
そんな時が私たちが働いている間に訪れるとするなら、それは素晴らしいことですね。でもそれはそれとして、
「そうなった時、どんな仕事が残っていて、私たちは何をするのか?」
は今から考えておいた方がよいように思います。
おそらく、各職種において「付加価値を生み出しにくい部分」、「作業」の部分は全て技術によって代替される方向に進みます(個人的な願望も含めて)。
従って私たちは、私たちが「もっともやりたい事」「創造性を発揮できる(付加価値を生み出せる
こと」に注力することができるようになるでしょう。
たぶんそれは「感性」や「想像力」が求められる部分の仕事です。感性や想像力に基づく仕事は、「誰がやっても同じになる」ようなマニュアル化できる仕事ではありません。
そして私は個人的には、感性も想像力も訓練によって鍛えることができると考えています。
今、この文章を書いている最中も、色々と思考を巡らせています。
「これからどんな未来が来るのか?」
「自分としてはどんな未来を創りたいのか?」
「その未来を創るために、今、自分が成すべきことは何か?」
働き方や社会のあり方がこれからますます大きく変化していきます。
より望ましい未来を創るために、今この時からできるささやかなことを考えていきましょう。
4. まとめ
・DAOは経営者や管理者がいない組織形態
・会社や組織に所属して働く、という従来の仕事のあり方は変わっていく
・肉体労働も管理業務や事務処理も技術によって代替される
その時、人間に残る仕事は「感性」と「想像力」が求められる仕事
〈今日の読書を行動に変えるための個人的チャレンジシート〉
1.この本を読んだ目的、ねらい
・ブロックチェーンとビットコインについての理解を深める
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・DAOに対する理解が深まった
・仮想通貨の発行主体がどこになるかによって未来が大きく変わることが分かった
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・未来の社会とそこでの自分の働き方を考えてみる
・感性と想像力を磨く訓練を行う
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・ブロックチェーンに対する理解をさらに深めている
・会社ではなく個人として、世界を相手に仕事をしている自分の姿をありありと思い描くことができるようになっている
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