書評『Learn Better 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』アーリック・ボーザー 著
<引用>
学習を頭を働かせる「活動」ととらえる研究によって、知識の習得についての常識はここ数年で大きく変わった。例えば、最近この研究を総ざらいに評価したケント州立大学のジョン・ダンロスキーらによると、蛍光ペンでなぞるやり方は学習にあまり効果がないとわかった。なぜか。マーカーを引くのは人が知識を構築するのに十分な行動ではない、ということらしい。
同様に、ダンロスキーらによれば繰り返し読む効果も限定的だ。なぜか。これもやはり頭を働かせる「活動」を促すには至らないからだ。
ではダンロスキーの大々的な分析ではどのアプローチに成果が見られたのだろうか。ダンロスキーに電話で連絡をとったところ、自分で自分に問題を出したり、自分に説明してみたりするような、能動的な学習活動が最も効果が高いと話してくれた。
「これは人間の頭の働きの基本的特徴なんです」と彼は語った。学習するとは「単に情報をコピーするだけではない。事実の意味を理解することなのです」。
ジムでのウェイトトレーニングと同じように、エクササイズはこちらの努力を要するものほど、成果が上がるようだ。
どこの大学図書館でも、行ってみると学生は受け身で本を読んでいる(対象について学びたければ、能動的に関わる行動をとるべきだ)。
高校の校内を歩いてみれば、生徒たちは教科書の全ページに機械的にマーカーを引いている(自己テストのほうが学習アプローチとしてずっと効果が高い)。
大事な会議の準備をするのに人はメモに目を通すだけのことが多い(もっと良いアプローチは、誰もいない部屋で伝えたい内容を実際にしゃべってみることだ)。
アメリカ随一の記憶の専門家はどうやってスクラブルのスキルを伸ばしているのだろうか。
シューウォーツは自己テストを使っている。知識に磨きをかけるために、彼はたえず自分に質問を出して、さまざまな単語を思い出せるかどうか確認する。信号待ちしているときや自分の研究室で人を待っているとき、彼は自分がすでに学んだこと、これから学びたいことについて自分に質問している。
検索練習と呼ばれるこの方法は、記憶に関する最近の文献によく取り上げられ、時には他の学習法を五〇パーセントほども上回る効果を上げている。
ある有名な実験では、被験者グループが文章を四回読む。別のグループは一回しか読まないが、思い出す練習を三回行う。研究者が数日後に二つのグループを追跡調査したところ、思い出す練習をしたグループのほうがはるかによく文章を覚えていた。つまり情報を繰り返し読んだ被験者より思い出す試みをした被験者のほうが、はるかに習得度が高かったのだ。
学習学の世界では、検索練習はテスト効果とも呼ばれる。学んだばかりのことについて自分で自分に質問する練習だからだ。だがこの手法のポイントは質問を出すところではない。大事なのは自分が知っていることを思い出す手間をかけることである。自分の知識について質問して、それが再生できるかを確認するのだ。
具体的に言うと、検索練習は選択肢から答えを選ぶ問題とは異なる。むしろ頭のなかで三つの文からなるエッセイを書くのに近い。概念を思い出し、意味の通る形に要約するからだ。だから、検索練習も頭を働かせる「活動」の一種と考えることができる。知識を支える意味のネットワークを能動的に創造する方法なのだ。認知心理学者のボブ・ビョークが語ったように「記憶から情報を取り出す行為は効果の高い学習法」なのである。
1.この本はどんな本か?
効果的な学習方法について述べられた本です。新しい知識やスキルを習得するためには、どのようなプロセスで学ぶのが最も良いのかについて、数々の事例と研究成果を紹介しながら、6つのプロセスに分解して順番に説明されています。
その6つのプロセスとは、これから学ぶ事柄に対して、
・価値を見いだす
・目標を決める
・能力を伸ばす
・発展させる
・関係づける
・再考する
という段階を踏むことです。
書店でよく見かけるような著者の個人的な経験だけに基づいた、汎用性の低い独自の勉強法の本ではなく、科学的なエビデンスに基づいた「上手に学ぶための方法」をまとめたものですから、このプロセスに従うことで、私たちの学習効果も高めることができるでしょう。
「学習」というと、机の上に教科書や問題集とノートを広げて行うもの、というイメージが強くあります。ですが、本書で提唱されている方法は、バスケットボールやダーツなどの体を使う運動にも適用できるもので、そのような事例も紹介されています。
もしあなたがこれから何かの学問や運動などのスキルに習熟したいと考えているならば、それに取り組む前に一度本書で効果的な学習プロセス、「学び方について先に学んでおく」と結果的に早く習熟することができるはずです。つまり科学的な裏付けのある学習方法を先に学んでおくことが、習熟や上達のためには、結果として遠回りのようで実は近道になるいうことです。
一つだけ、本書の欠点を挙げるとするならば、事例もエビデンスも豊富なのですが、「それで、結局学習効果を高めるために何をすればいいのか?」という具体的な行動が、各プロセスごと、各章末ごとにはまとめられていない点です。本の全編にわたって紹介される事例の中にちりばめられた「自分に必要な効果的な学習を実践するための行動のエッセンス」を拾っていく必要があります。また、各章の小見出しも、本文の内容の要点をまとめたものにはなっていません。 従って、再読時にも何がどこに書いてあったかが探しにくいため、そういう意味では内容が良いだけに、少し読みにくくなっていて、その点はもったいない本です。
一応、本の最後には「ツールキット」という形で各章の学習プロセスについての具体的な行動が短くまとめられています。本書を最大限活用するためには、まず、この部分をざっと読んでから、気になった章を読んでいく、という使い方が良いかもしれません。
今回は「第1章 価値を見出す」と「第3章 能力を伸ばす」の中から関連する内容について書かれた部分を引用しました。また、引用文中で登場する「スクラブル」というのは、「ボード上に、アルファベットと数字が書かれたコマを並べて英単語を作り、得点を競うゲーム」のことだそうです。
2.蛍光ペンの衝撃
私はこのような書評のブログを書くにあたり、いつも本にマーカーで線を引きまくっています。だいたい本を1回目に読むときに、気になった部分に線を引きます。2回目に線を引いたところだけを読み直します。そして3回目に読み直した時に、その中でも特に自分の心が震えたところ(本の中で一番感動したり、はっとさせられる気づきを得たところ)を「引用」として抜き書きしています。
線を引きながら本を読むとその分、1回目の読書には普通に本を読んだ場合よりも時間がかかりますが、2回目以降の読書では線を引いた部分しか読まないため、1回目の読書よりもはるかに短時間で読みなおすことができます。
そのような利点はあるのですが、振り返ってみると、自分が「この部分は大切だ」と思って線を引いた部分の内容を全て覚えていられるかというと、もちろんそんなことはありません。正直に告白すると、「きれいさっぱり」忘れています。
「これだけは覚えておきたい!」と思って、ブログに引用している、その本の中の自分にとっての珠玉の一節ですら、時間が経つと忘れてしまうのです。
こんな状態では、時間と労力をかけた割には、それに見合うだけの実りを得ることができていないようにも思います(もちろん、考えたことを一度文章として残しておけば、読み返すことで記憶をリフレッシュさせることはできるので、決して無意味ではないのですが)。
ブログの場合でもこのような感じなのですが、それよりももっと労力に対する学習効果が見合っていないと思うのは、例えば受験勉強や資格試験の勉強などをする時に参考書に引くマーカーですね。
学生時代は教科書の暗記したい文章を緑のマーカーで塗りつぶして、その上から赤いシートを被せて文字を読めなくすることで、書かれている内容を思い出す練習をしていました。
引用した部分にもある通り、 特に暗記系の科目では、教科書の太字のゴシック体で書かれた箇所や、自分がまだ覚えられていない箇所は、全てマーカーで塗りつぶしていたように思います。塗りつぶすことで、「自分はたくさん勉強している」ということを自分自身に納得させるかのように。
ただ、今になって当時を振り返ってみると、それが試験の成績に直結したかというと、必ずしもそうとは言い切れません。マーカーのせいで読みにくくなった教科書が残っただけだったかもしれない、と思ったのです。
従って、今回引用した部分のように、「マーカーで線を引くことは学習効果が薄い」という調査研究の結果には、今でも本に線を引きまくるマーカー使いとしては、とても衝撃を受けたのです。
読書術や読書法の本を読んでいると「本に線を引け」ということを主張されているものも多いだけに、その反対とも言うべき本書の内容には目から鱗が落ちる思いでした。
3.質問と小テスト
では、これまで本にマーカーを引いていた時間を何に充てれば、より学習効果を高めることができるのでしょうか?
本書では「学ぶ対象に能動的に関わること」が必要だと述べられています。
具体的に言うと、
・自分で自分に質問や問題(小テスト)を出して、思い出す練習をする
・(学んだ内容について)自分に説明してみる
といったことです。
何度も繰り返し読む「インプット」の回数を重ねるよりも、何度も思い出す練習をする「アウトプット」の回数を重ねる方が学習効果が高い、ということです。
本を読んで、書かれていた何かを自分の中に取り込んで、成長に役立てていくためには、自分の感情の揺れ動きを簡単に読書メモとして記録しておくだけでも有用だと思います。
もちろんこのブログもそのような意図もあって書いています。
でも、「もっと効果的に学び、効果的に成長できるとしたら、どうすれば良いか?」と考えた時、役に立つのが「質問」や「小テスト」です。
私も考えてみたのですが、本を1章読み終わった毎に一端本を閉じて、例えば以下のような質問をして、そしてそれに答えてみる、というのはどうでしょうか。
Q1. この章には何が書いてあったか?
Q2. この章で心が震えたこと、「!(はっとさせられたこと)」や「?(疑問に思ったこと)」は何か?
Q3. この章に書かれていることから自分は何を学んだか?何を取り入れ、これからどんな行動をとるか?
こういった質問や小テストにいちいち答えていくのはめんどくさい、と思われるかもしれません。ですが、引用した部分にも書かれているとおり、「エクササイズはこちらの努力を要するものほど、成果が上がる」のです。思い出す練習、アウトプットする練習を繰り返すほど、「長く覚えている」ことができて、「定着していく」のです。
このような質問を本1冊ごとに行って、それを簡単に読書メモに残しておけば、それはいつでも携帯できるし、いつでも使うことのできる「バランス栄養食品」のように自分の糧となってくれるでしょう。
上記の質問は、別にビジネス書や自己啓発書にこだわらなくとも、小説、エッセイ、ノンフィクションから、漫画や新聞記事、テレビ番組、人から聞いた話など、何にでも適用することができます。
「自分に質問する」「自分に小テストを出す」、そして「思い出す練習をする」ことで、「アンテナの感度」が上がります。その結果、日々、身の回りを流れていく情報をただの「ジャンクフード」として消費していくのではなく、学びや気づきを得るための「健康食」に変えることができるのです。
4.まとめ
・ 蛍光ペンでなぞるやり方は学習にあまり効果がない
・学習効果を高めるためには「自分で自分に質問や問題(小テスト)を出して、思い出す練習をする」ことが大切
・意図的な質問や小テストによって、身の回りの全ての情報から学び、成長することができる
<今日の読書を行動に変えるための
個人的チャレンジシート>
1.この本を読んだ目的、ねらい
・学習効果を高めるための学び方について学ぶ
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・本にマーカーを引くことは学習効果が薄い、ということが学べた
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・マーカーを引いていた時間を減らして質問に答える(思い出す)時間に充てる
・マーカーを引いていた時間を減らして行動する時間に充てる
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・アウトプットの時間が増えて成長スピードが速くなっている
・学んだことを忘れずに活用できるようになっている
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