書評『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』 中島聡 著
<引用>
今まで、たくさんの日米のエンジニアと仕事をしてきました。その中には私よりも明らかに賢いエンジニアもいましたし、ものすごい生産性でプログラムを作ってくれる馬力のあるエンジニアもいました。しかしそんな中でも、私が仕事をするうえで最も大切だと考えている「あること」をきちんとこなせる人は100人に1人もいませんでした。
その「あること」とは、「常に締め切りを守ること」です。正確に言い換えれば、「常に締め切りを守れるような仕事の仕方をすること」です。
たとえば上司から「これ10日でやっといて」という仕事が降ってきたとき、どうすればいいでしょうか?
大切なことは、スケジューリングの段階から「締め切りは絶対に守るもの」という前提でのぞむことです。すると予定を立てる段階から、次のような真剣なやり方をとらざるを得なくなるはずです。
①「まずはどのくらいかかるかやってみるので、スケジュールの割り出しのために2日ください」と答えて仕事に取り掛かる(見積もりをするための調査期間をもらう)
②その2日をロケットスタート期間として使い、2日で「ほぼ完成」まで持っていく
③万が一、その2日で「ほぼ完成」まで持っていけなかった場合、これを「危機的な状況」と認識してスケジュールの見直しを交渉する
まずは上司から指定された期間の2割(この場合は2日間)を見積もりのための調査期間としてもらい、その期間、猛烈に仕事に取り掛かります。
仕事の真の難易度を測定するためです。その間に「8割方できた」という感覚が得られたなら上司に「10日でやります」と伝えます。
そこまで至らなかったら、相当難しい仕事と覚悟したほうがいいでしょう。上司に納期の延長を申し出るのは、早ければ早いほどいいわけですから、8割方できなかった場合は期日の延長を申し出ましょう。
大切なのは、②で全力のスタートダッシュを行うことです。
「締め切りに迫られていないと頑張れない」のは多くの人々に共通する弱さですが、先に述べたように、仕事が終わらなくなる原因の9割は、締め切り間際の「ラストスパート」が原因です。
ですから、10日でやるべきタスクだったら、その2割の2日間で8割終わらせるつもりで、プロジェクトの当初からロケットスタートをかけなければなりません。初期段階でのミスならば簡単に取り戻せますし、リカバリーの期間を十分に持つことができます。
とにかくこの時期に集中して仕事をして、可能な限りのリスクを排除します。考えてから手を動かすのではなく、手を動かしながら考えてください。崖から飛び降りながら飛行機を組み立てるのです。
そうして、実際に指定の2割の時間がすぎた段階で、仕事がどのくらい完了しているかをできるだけ客観的に判断します。
その時点で8割方完成していれば、上司に「10日のスケジュールで大丈夫です」と伝え、残りの2割の「完成にまで持っていく仕事」を残りの8日間をかけてゆったりと行っていきます。余裕があればその期間に次の仕事の準備を進めたりもします。
この段階で大切なのは、「全力で仕事と向き合う」ではなく「仕事の完成度を高める」であることを強く意識して向き合うことです。8割の時間を使って2割の仕事をこなすわけですから「仕事が終わらないわけがない」という余裕が生まれます。心地いいほど完璧なスラックの獲得です。
ここまでが、私が実践している仕事との向き合い方の全貌です。一言で言えば「時間に余裕があるときにこそ全力疾走で仕事し、締め切りが近づいたら流す」という働き方です。
1. この本はどんな本か?
プログラマーとして米Microsoft社でWindows95やWindows98の開発に携わり、現在はベンチャー企業の経営者であるという著者が、時間の使い方についてまとめられた本です。
メインは仕事における時間の使い方の話ですが、勉強、自己実現などでの時間の使い方についても述べられています。本書で述べられている時間の使い方、「ロケットスタート時間術」は、そのように私たちの生活のあらゆる場面で適用することが可能な汎用性の高いものだと思います。
今回引用したのはその「ロケットスタート時間術」の核となる部分です。この仕事術は、私たちの仕事を確実に終わらせて、そして人生を楽しむための方法として確実に役に立つでしょう。
また、著者はかつて米Microsoft社に在籍していたため、ビル・ゲイツに関するエピソードがいくつか紹介されています。そのビル・ゲイツの考え方や仕事の進め方の部分も読み応えがあり、非常に参考になります。
仕事がなかなか終わらない、やりたいことをするための時間が確保できない、など、時間の使い方に悩まれている方や、自分が過ごす時間の質を高めたいという希望をお持ちの方は、この本を読んでおいて、損することはまずないと思います。とてもお勧めできる本です。
2. ロケットスタート!
本書で述べられている「ロケットスタート時間術」の概要は「ラストスパート」型の仕事術の対極に位置するものです。
仕事を進める時のテクニックのとして、「締め切り効果」を利用する、というものがあります。
この方法では、例えば、締め切りを本当の締め切りの例えば3日前など、あえて前倒しで設定しておきます。そうすることで意識的に「急がなきゃ」という気持ちを発生させ、集中して仕事に取り組めるように自分をコントロールするものです。
まだ終わっていない仕事の締め切りが近づくと、誰だってある程度は落ち着かない気分になりますので、その気持ちをより積極的に活用してやろうというものですね。
ですが、この「締め切り効果」を使うテクニックにも欠点があります。
1つ目は、実際の締め切りは自分で設定した締め切りよりも、もう少し後ろの日程であるため「まだ大丈夫」という油断が生じてしまい、「締め切り効果」の効き目が弱くなることです。
2つ目は、「締め切りに対する焦り」を「エンジン」として自分を動かすのは精神的な疲労が大きいとういうことです。1回や2回なら大丈夫ですが、「いつも何かに追われている感」を持っていると精神的に落ち着かず、なかなか「余裕」を持つこともできません。必ず「ガス欠」が起こります。
このあたりが「ラストスパート型」の欠点だと思います。
よく言われることですが、仕事に「追われる」のではなく、仕事を「追う」。こういった意識と行動に切り替えていった方が、精神的にも時間的にもきっと「余裕」が持てるはずです。
「締め切り前に頑張るラストスパート型の仕事のやり方では何故ダメなのか」という理由が本書ではたくさん挙げられています。その中で特に大きなものとして、仕事の後半になるほど、大きな軌道修正や方向転換が行いにくくなる、ということがあります。
特に個人ではなく、複数のメンバーや多数の組織が関わるプロジェクトになるほど、そのプロジェクトの後半における「一つの変更」が与える影響の度合いは大きくなります。
そしてもちろん、「予定の締め切りに間に合わない」ということも起こりえます。
「何故、締め切りに間に合わないのか」を考えるとそれは結局、「仕事の質と量に対する当初の見積もりが甘かった」ということに尽きると思います。
それでも、やったことのある仕事であれば、必要な労力や時間、費用などのコストをざっくりと見積もることはできるでしょう。ですが、初めて挑戦する仕事など、どれくらいの時間、その他コストが必要なのかを見積もるのがそもそも難しい場合も多々あります。
そんな状況であっても「締め切りを守る」というプロとして仕事をしていく上での最低条件を達成するためには、その仕事がどれくらいの難易度のものか、仕事の量はどれくらいかの「当たりをつける」必要がでてくるわけです。
3.スラックを持つ
そこで、「ロケットスタート時間術」が登場することになります。
「ロケットスタート時間術」は、ラストスパートではなく、「スタートダッシュ」をかけて「先行逃げ切り」をはかる方法です。
その名の通り、仕事が始まった最初の段階で自分の持てる力を「全力投入」します。(本書ではこのことを「20倍界王拳を使う」という、漫画『ドラゴンボール』に出てくる技の名前の例えで説明されています)
「20倍界王拳」は『ドラゴンボール』を読んだことがある人にはとても分かりやすい例えなのですが、読んでいない方向けに、それとは違う例えで説明してみます。
野球の場合、「抑え」とか「closer(クローザー)」と呼ばれるピッチャーの役割は、1イニング、もしくは1人の相手打者に対して、僅かな点差を守り抜き、その試合の勝利を確実なものにすることです。
先発ピッチャーと違って短期決戦なので、疲労を意識せずに「最初から全力の剛速球」をキャッチャーミットに向かって投げ込むことができます。
私たちが試合開始の1回表から、この「全力剛速球」を投げ込まないといけない理由は、バッターボックスに立つ「仕事という相手」が、これまで対戦経験のない「未知の強打者」かもしれないからです。
「確実に打ちとる(締め切りまでに仕事を終わらせる)」ためには、「相手の実力を測る(仕事の難易度と量を見積もる)」必要があります。
その全力剛速球で相手を三振に仕留めることができた(最初の20%の期間で8割完成までもっていけた)ならば、残りのイニングは「力を抜いた変化球」で、その打者(仕事)をのらりくらりとかわし続けることもできるでしょう。
ですが、もし自分の「渾身の一球」をセンター前まできれいに打ち返された(最初の20%の期間で6割以下までしか到達できない仕事)ならば、戦略を変える必要がでてきます。早い段階でピッチャーを交代してもらう必要も出てくるかもしれません。
今、手元にあるリソース(労力、時間、お金など)でその仕事を期限までに終えられるか?
それを測るために最初からの「全力投入」、「スタートダッシュ」が大切になるのです。
そうしないと、その仕事に対する「土地勘」のようなものは掴めないのです。
逆に、最初のスタートダッシュで「土地勘」 さえ得ることができたならば、
(東に行けばスーパーがあって、南に行けば駅があるという地図を頭の中で描ける状態)
あとは目的地に到達するためのだいたいの行き方は描けるようになります。
(次の交差点を左折して、3つ目の信号を右に曲がる、など)
これが仕事の全体感を掴めた状態です。
そして、ラストスパート型からロケットスタート型の時間術へ切り替えることの最大の効用は、
「スラック」が持てるということです。
「スラック」は本書の中では、「たるみ、ゆるみなどを意味する言葉で、転じて心理的な余裕のこと」と説明されています。
例えば睡眠不足などでスラックがない状態が続くと、人はどんどん生産効率が落ちていく、とも書かれています。
これは前述の「ラストスパート型」にも当てはまります。
例えば学生時代の定期試験前日の徹夜などが良い例でしょう。
歴史などの暗記科目を徹夜で記憶しようとしても、覚えなければならない量が膨大で覚えきれない上に、ほとんど寝ていないので頭が回らない。結果、試験の点数も良くない。
これを「ロケットスタート型」にすると、どうなるか。本書でも説明されていますが、予習を頑張り(ここがロケットスタート)、 分からないところだけ授業を通して復習するというスタイルになるため、試験直前に慌てる必要がない、ということになります。
つまり、十分な「スラック」がある=心理的な余裕が持てている状態です。
この「スラック」がある状態を常に作り出すことを意識すれば、その時間を「緊急ではないけれど重要なこと。自分のやりたいこと」にあてることができます。ですから、毎日の充実感が高まっていくのです。自分の目標にも近づいていくことができるのです。
目的は、仕事を早く終わらせることではなく、仕事を早く終わらせて、自分にとって大切なことを行う「スラック」を確保することです。そのための「ロケットスタート時間術」。是非、取り入れてみて下さい。
4.まとめ
・ 「ロケットスタート時間術」は、「時間に余裕があるときにこそ全力疾走で仕事し、締め切りが近づいたら流す」という働き方
・第1球目からの全力剛速球で相手の実力を推し量り、その後の戦略を考える
・大切なことは、「仕事を早く終わらせること」ではなく、仕事を早く終わらせて「自分にとって大切なことに取り組む時間を確保する」こと
<今日の読書を行動に変えるための
個人的チャレンジシート>
1.この本を読んだ目的、ねらい
・早く仕事を終わらせる方法と考え方を学び、取り入れる
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・「ロケットスタート時間術」は人生の様々な場面で使えそうだと感じた
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・早速、仕事に取り入れたところ、残業時間が減少した
・スラックを生み出すことを意識したところ
仕事にこれまで以上に前向きに取り組めるようになった
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・時間に追われずに仕事を片付けている
・第2領域の活動を行うために十分な量のスラックを日々生み出している
そのような仕事の仕方をしている
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