書評『ブロックチェーン革命』 野口悠紀雄 著

テクノロジー, 書評ブロックチェーン

この節では、ブロックチェーンとIoTがいかなる社会を作るかを探ろう。

スマートコントラクト(コンピューターが理解できる形の契約)には、一般にブロックチェーンが適用可能である。契約の交渉、締結、執行などをすべてブロックチェーン上で自動処理し、記録する。それによって、複雑な契約を、短時間で、低いコストで実行できる。

IoTでさまざまなものが結び付けば、ブロックチェーン上でIDを認証されたデバイス同士が、自動で連絡しあうことになる。これによってつぎのようなことが行われるだろう。

まず、IoTによって工場の効率的なマネジメントが可能になると期待される。各製造過程の情報とメンテナンス情報をリアルタイムに把握することによって、製造ラインは最大効率で動き続けることができる。

修理が必要な場合には、機械が警告を出す。部品の在庫を管理する。販売状況との関連で生産をコントロールする。

また、ビルの各部屋の状況を監視することにも用いられるだろう。光や空調などを自動でコントロールし、電力コストを削減し、オフィスのビッグデータを収集する。

病院にはたくさんのスマートメディアがあるが、現状では、互いに連絡していない。ブロックチェーンを用いれば、プライバシーを守りながら連絡するシステムを構築できる。

患者の体にセンサーを付けて、体温や心拍数、血圧などの情報をネットワークに送る。そのモニタリングはリアルタイムに行うことが可能になり、医師が無駄に往診する必要がなくなる。

もう一つの重要な応用対象は、インフラストラクチャー(社会資本)の管理と修理だ。これまでは「壊れたら修理する」という方式だった。しかし、それでは、損失が大きくなる。

ブロックチェーンを用いれば、「壊れる前」に部品を交換する予防保全が可能となる。センサーが状況を監視し、修理が必要になれば信号を出す。そして自律運転車がそこに出向いて修理をするのだ。簡単なものなら、ロボットが行うだろう。

たとえば、人が住んでいない地域にある水道管が「水漏れが発生。修理が必要」と発信すると、自律運転の修理車が現地に向かって修理し、費用を計算して水道管理機関に請求する、などということも考えられる。

日本では、高度成長期に建設されたインフラストラクチャーが耐用年齢を迎えようとしている。このため、さまざまな事故が各地で起こっている。ブロックチェーン導入による管理システムの構築は、焦眉の課題だ。

1. この本はどんな本か?

ブロックチェーンとはどういうものか、その仕組みと、現在の展開と未来における応用について包括的に述べられた本です。以前ご紹介した『入門 ビットコインとブロックチェーン』と同じ著者によるもので、その応用編と呼ぶことができる本です。

応用編ですので、前述の本よりもより深く突っ込んだ内容まで言及されています。すでに基本的な知識をお持ちの方は前半部分は流し読みされてもよいでしょう。第6章以降から始まる、ブロックチェーンのこれからの応用について書かれた部分から読み始められると興味深く読めるのではないかと思います。

今回は、IoTにおけるブロックチェーンの応用について書かれた部分から引用しました。

2. IoTとブロックチェーン

IoTはInternet of Things(モノのインターネット)の略で、あらゆるモノをインターネットに接続して、モノ同士で情報をやりとりすることを指します。

すでにたくさんの製品が登場していますが、これまでのようにPCやスマホ、デジカメなどだけでなく、例えばエアコンや冷蔵庫、洗濯機のような家電製品もインターネットに接続して、外出中でも家の中の家電製品を操作できたりするようにする、これもIoTの一例です。

一般家庭用製品だけでなく、例えば、飛行機のジェットエンジンの状態のリアルタイムでのモニタリングや発電設備の遠隔制御などにもIoTが使われています。

また、現在製造業で進められている取り組みとして、引用した部分にも書かれているとおり、工場の生産ラインの監視による製造の自動化と効率化、それによる生産性の向上を目指したプロジェクトがドイツや日本などで推進されています。

このようなIoTに、一体どのようにブロックチェーンが関係してくるのか、なぜブロックチェーンが必要なのかということですが、本書ではIoTに関する次の4つの問題点が説明されています。

第1に、IoT機器を一元管理するにはコストが高すぎるということです。

例えば工場で30000個の製品を製造することを考えた場合、その製品の状態をリアルタイムで把握して、品質を管理するためには、それぞれの製品に対して1個ずつ、つまり30000個のセンサーを付ける必要があります。

そしてその1個1個の商品の状態をずーっとモニタリングして、何かの異常を検知したら逐一対応する。これをを少数のサーバーで集中管理しようとするとサーバーには多大な負荷がかかりますし、非常に費用が高くつきます。

第2に、繋いだだけでは何の価値もない、ということです。

あらゆるものをインターネットに接続して、情報のやりとりを行えるようにしたとしても、「これは便利!」というはっきりした用途が見いだせない限りは、あまり意味がないものになってしまいます。

例えば、帰宅する頃に最適な室温になるように、外出先でエアコンのタイマーと温度の設定ができたり、あるいは冷蔵庫にある食料品の種類と数などが分かったら買い忘れの防止にもなるため便利かもしれません。

でも、例えば外出先からインターネットを通じてトースターのスイッチを入れられたり、パンの表面の焼き色をモニタリングできたとしても、それほど利便性は感じられないような気がします。

従って、盲目的にどんな製品でも、インターネットに繋いでしまいさえすればよい、ということにはならないのです。

第3に、これは2番目の問題点とも関連しますが、特に家の中のIoT、ホームオートメーションの分野では利益が出るビジネスモデルが確立されていない、ということがあります。(つまり、ユーザーに使いたいと思ってもらえるだけの価値を提案できていない、ということです)

これは製品自体の活用方法、という点でもそうですし、製品を通して蓄積されるデータについても成り立つ話です。

最近、Amazon Echoなどのスマートスピーカーが登場してきました。個人宅で取得されたデータをビッグデータとして自社の製品やサービスの改善に役立てることはできますが、たとえ個人情報が分からないように加工したとしても、そのようなデータを外部に販売することはできません。

たまに、「あぁ、なるほど、これがあると便利かもしれないね」というような機能を備えたIoT関連の製品を見かけることもありますが、喉から手が出るほど欲しくなるような、爆発的に普及しそうな製品(少し昔で言うとHDDレコーダが登場してビデオテープやDVDへ録画する手間から解放された時のような感じ)はまだ登場していないように思います。

そして第4に、これは第1の問題点とも関係しますが、IoTでは「信頼性を必要としない」仕組みが必要になる、ということがあります。

今後、インターネットにつながる製品の数は爆発的に増えていきます。2009年にはインターネットに接続する機器の数は全世界で約25億個だったそうですが、これが2050年には約1000億個を超えると予測されています。

ここまで数が増えるといくら通信速度が上昇したとしても、情報を信頼できるサーバー側で一元管理するようなことはコスト面だけでなく物理的にも困難になるでしょう。

3. つなげて、それからどうするのか

ブロックチェーンの技術を導入して、これから増加していくインターネットに接続する機器を管理するとすれば、まず、第1の問題点である一元管理の問題と第4の問題点となる信頼性の問題はクリアできます。

何故ならブロックチェーンという技術自体が、情報の分散管理を行い、また、不特定な相手との取引でも信頼が成り立つような設計になっているためです。

分散管理のため、1台のPCで集中管理する場合に比べて、各PCにかかる負荷はずっと小さくなるので、物理的にもコスト的にもデータのやり取りが許容範囲内に収まるようになります。

一方で、第2、第3の問題点、つないで、それからどうするのか?また、どのように価値を生み出し利益を得るのか?という点については、ブロックチェーンをIoTに導入しただけでは解決できない問題のように思います。

ブロックチェーンを導入した場合の利点の一つは、今回引用した部分で「スマートコントラクト(コンピューターが理解できる形の契約)」と書かれているように、機器同士の間のやり取りを「あらかじめ決めておく」ことによる「省力化」、「自動化」です。

スマートコントラクトでは、コンピューターに契約の交渉、締結、執行などをすべてブロックチェーン上で自動処理し、記録してもらいます。これにより煩雑な事務処理が大幅に削減できると考えられています。

ですから、IoT機器を接続して付加価値を生み出していくためには、このスマートコントラクトのメリットを最大限に活用できるサービスを考えるのが良いのでしょう。

そして実はこれが一番難しい部分だったりします。

本書では「IoTはハードウェアではなく情報の問題である」と述べられています。

日本は電気機器などのハードウェアを作るのは得意ですが、それらをつないで、データを集めて、管理して、活用する部分では決定的に弱い、ということです。

昔、iPodが初めて登場した時に、日本のある電機メーカーの社員が、「こんなものはうちの会社でも作れる」と言ったといいます。でも、例え同じものをその当時作ることができたとしても、iPodのような世界的な大ヒット商品にはならなかったでしょう。

何故ならiPodは、iTunesという音楽をダウンロード購入して管理できるソフトウェアやプラットフォームの部分を含めて、ユーザーの利便性を最大限まで高めていたため広く受け入れられたのだと考えられるからです。

そういったソフトウェアやプラットフォーム、サービス展開の部分は日本企業が長年に渡り不得手としてきた部分です。

ただ、世界的な潮流としてブロックチェーンの活用が叫ばれている中で、「苦手だから」という消極的な理由でこれらを避けているわけにはいきません。

日本としては、ソフトもハードも組み合わせたIoT/ブロックチェーンのビジネスモデルを包括的に、俯瞰的に、大局的に考えられるようになっておく必要があるでしょう。

そしてそれは同時にミクロの視点からは「本当にユーザーの役に立つもの、面倒を解消できるもの」であることが求められます。

ソフトやサービスがボトルネックだとするならば、それを前向きにとらえれてみれば、その部分さえテコ入れして、克服することができれば、大きな飛躍が待っているということです。

常に問題意識を忘れずに、どうすればよいのかを考えていきたいと思います。

4. まとめ

・IoT機器は今後増加するが、つなぐだけでは価値は生み出されない

・日本はハードウェアに強みがあるが、ソフトウェアやプラットフォーム、サービスの部分に弱みがある。

・この弱みを克服するためには、大局的なマクロ視点と焦点を絞ったミクロ視点の両方を持ち、考えていく必要がある

〈今日の読書を行動に変えるための個人的チャレンジシート〉

1.この本を読んだ目的、ねらい

・ブロックチェーンの応用展開について学ぶ

2. 読んでよかったこと、感じたこと

・IoTやDAOへの応用展開の話が参考になった

・ブロックチェーンを使ったビジネスを考えるきっかけを得た

3. この本を読んで、自分は今から何をするか

・IoTでブロックチェーンを活用して価値を生み出すためのビジネスモデルのアイデアを考える

・ブロックチェーンに関するスタートアップ企業のビジネスモデルについて情報収集を行う

4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか

・今よりも、マクロな視点とミクロな視点の両方を持ち合わせており、それらを状況に応じて自由に使い分けることができるようになっている

・IoTやブロックチェーンを有効に活用したビジネスプランが思い描けて人に説明できるようになっている

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Posted by akaneko