書評『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか ー論理思考のシンプルな本質』津田久資 著

書評, 思考法・考え方

<引用>

発想に「バカの壁」が入らないようにするのが、思考の質を高める最大の近道だった。そして、そのためには、自分が考えている範囲を意識しなければならないという話をした。では、その範囲を取り囲んでいる境界線とは、何なのか?ここでも結論から言おう。

この境界線の正体は言葉である。

言葉というのは本質的に、対象を「あるもの」と「そうでないもの」に分ける機能を持っているのだ。

「言葉を会得するということは、自分の周囲にふつふつと沸き立っている無数にして無限の、無秩序な連続体に、言葉で切れ目を入れるということなのです」(井上ひさし『本の運命』文春文庫)

現実はすべてつながり合っていて、得体の知れない部分がある。「A」という言葉は、現実を「Aであるもの」と「Aでないもの」に切り分ける境界線として機能するのである。

虹というのは、日本では7色だとされているが、アメリカでは6色だと言われているそうだ。しかし僕は「虹は7色だ」と語るアメリカ人に会ったこともあるし、ほかの地域や時代によっては8色、5色、3色、2色など、バラバラである。

では、どれが正しいのかというと、もちろん正解はない。なぜなら、虹というのは、赤外線と紫外線の間の光の波長であり、実際には全てが切れ目なくつながっているからである。僕たちが「虹は7色だ」と語るとき、僕たちは色を表す言葉を使って、そこに切れ目(境界線)を入れている。

<書評>

虹の色の例えは非常に分かりやすいと思いました。ひとたび、「青色」という言葉を定義した途端に、世界は「青色のもの」と「青色でないもの」に分けられてしまうのです。

つまり、注目した何かに言葉を与えることによって、混沌としたまま繋がっている世界の一部を切り取ってくることができる。

それは、目に映る外の世界に対してもそうですし、頭の中で考えていることに対してもそうでしょう。

何か、もやもやとして、まとまらない思考を注意深く観察して、糸を手繰り寄せるように少しずつ言語化していく。地道な作業ですが、これを行なっていくと、自分が今、どんなことを問題だと考えているのかがよく分かるのです。

自分の思考の池の中に潜んでいる、解決したい問題の魚を、言葉という網を使ってすくい上げてやるというイメージです。

頭の中で漠然と思っているだけでは、自分が何を本当に解決したい問題だと考えているのか、自分でもよくわかりません。思考を止めた瞬間に、捕まえかけた魚はまた池の底に隠れてしまいます。

ですから、自分の思考の「もやもや」の池の底に、キラキラと光っている魚のウロコを見かけたら、忘れないうちに言葉の網ですくってバケツに捕獲しておきましょう。つまり書きだして言語化しておくのです。

一度、言葉の網で回収された「もやもや」は、もう元の「もやもや」とは境界線を引かれていますから、好きなだけ、色々な方向から鑑賞することができます。従って自己に対する理解が深めやすくなります。

そして、言葉の網はただ1種類ではないということも認識しておく必要があります。

例えば、喜怒哀楽の感情の「喜」だけを見てみても、その喜びの度合いには虹のようにグラデーションがあります。「これまでの人生で一番嬉しい!」から「ほんのささやかな喜び」まで、大小様々な喜びの形があります。これらの感情の魚を、みんなひっくるめてたった1つの「嬉しい」の網で捕まえてしまうのは、ちょっと乱暴すぎる気がします。

そこでやはりその魚の大きさ、形に応じた網として「語彙力」が求められます。

今、自分の道具箱にどれだけの種類の網を用意しているか。海の魚と川の魚で使い分けないといけないかもしれませんし、もしかしたら山に登った時のために虫取り網もあった方が良いかもしれません。

そういったものを普段から仕入れておこうと思ったら、やはり活字を読むのが良いのかな、と思います。むしろビジネス書などよりも小説や随筆の文章の方が、上手い言い回しだと感じることが多いですね。

そういった言葉を意識的に集めていって、状況や場所に応じた網を使い分けられるようになれば、それだけ自分の言葉によって捉えることのできる、見える世界がどんどん広がっていくと思うのです。

〈今日のチャレンジシート〉


1.この本を読んだ目的、ねらい

・論理思考を行うための方法と考え方について学ぶ


2. 読んでよかったこと、感じたこと

・言語化能力が論理的思考のスタートとなる

・ 言葉によって世界に境界線を引くことができる、という考え方を知ることができた


3. この本を読んで、自分は今から何をするか

・語彙力を増やすために、読んだ本から、「これは良いな」と感じた表現、言い回しをストックしていく

4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか

・今よりも細く、繊細に世界の境界線を引くことができるようになりたい

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Posted by akaneko