書評『わかりやすさの罠』池上彰 著
<引用>
ここまで、多くの人が情報収集手段として使っているネットと比較しながら、「新聞」「本」「書店」の活用法について説明してきました。この三つは、私にとって、「知る力」を鍛えるための最も有効な三大情報源といえます。最近、ネットに押されて軽視されがちな「新聞」「本」「書店」を、もっと使いこなしてほしいというのが、私の願いです。
私がスマホを見るのは、基本的には緊急の連絡が必要なときだけで、それ以外は取り出すことはしません。たとえば、ホームで電車を待つ間の数分でも、手持ち無沙汰だからとスマホを見る代わりに、「今度締め切りの原稿に何を書こうか」「どんな切り口がいいだろうか」といつも考えています。
序章で、私が「週刊こどもニュース」のキャスターをしていたとき、どうしてもアイディアが思いつかないときは風呂に入るとひらめくという、「アルキメデスの原理」の話をしました。間違えてほしくないのは、「風呂に入る=アイディアが浮かぶ」ではないということです。それなら、いつも風呂に入っていればいい、ということになってしまいますが、そんなわけはありません。
大事なのは、きっとアルキメデスもそうだったように、あることについてひたすら一生懸命考えるということです。その段階があってはじめて、風呂に入るなどしてふっと力を抜いたときに、いいアイディアが思いつくのだと思います。
忙しいからこそ、すきま時間は考えることに使うべきなのです。リアル書店の棚や本の表紙のタイトルからセレンディピティが生まれるのも、そうやって考え続けていることがベースになっているからと言えるでしょう。
すきま時間にスマホを見ることをやめると、さまざまなアイディアのタネがそこらじゅうに転がっていることに気づくと思います。「あれ、この看板、そこらじゅうにあるけど、これってどういうことかな」「駅のホームの広告、最近はずいぶん少ないな。景気はいいはずなのに、おかしいな」などと、疑問に思ったことを覚えておき、あとで調べてみると、思わぬ背景がわかったりするものです。
今は、電車の車内でも街なかでも、スマホを見ている人ばかりです。「スマホばかり見ていて、自分で物事を考える時間があるのかな」と心配になります。
スマホ依存や中毒は、世界的にも問題になっています。それを受けて、グーグルやアップルが利用時間を制限するツールなどの対策を取り始めていますが、「すきま時間にスマホを見ない」といった、これまでの習慣をちょっと変えるだけでも、効果は大きいのではないかと思います。私自身の経験からいっても、わずかな時間でも、積み重ねれば、無視できない違いが出てくるはずです。
「誰かがこう言ったから」「これまでと同じようにやっていれば間違いはない」ですんでいた時代は、過去のものです。今のような変化が激しい世の中で、時代の本質を見極め、生き抜いていくには、何よりも、自分の頭で考え、判断することが大切になってきます。そんなときに、スマホ中毒になっている場合ではないのです。
スマホで情報を消費するだけでは、けっして「知る力」を鍛えることはできません。便利な手段で考える時間を奪われることなく、情報を知識という力に変えていってほしいと思います。
1.この本はどんな本か?
ネットの記事など、出所の不明なことも多い「情報の正誤や裏側の事情」を自分で調べて、考え、判断するための力をどのようにつければ良いのかについて述べられた本です。
分かりやすい解説ニュース番組を視聴しただけで、「わかったつもり」になってしまい、その後、自分で関心を持ってニュースを見たり、新聞を読んだり、調べようとしない人が多いことに対して、著者は警鐘を鳴らしています。
一つの同じニュースを見聞きした時に、それを盲目的に信じるか、あるいは疑問を抱くかは、ニュースの「受け取り手側の実力次第」だといいます。そしてその実力が「知る力」だということです。
「分かりやすいということ」はとても大切なことですが、情報の出し手は必ずある意図を持って、つまり、情報の受け手を自分の望むように動かしたい、という打算的な考えがあることを忘れていけません。
従って、そんな「わかりやすさの罠」にはまらなないために、騙されないために、そこから先を自分の頭で考えられるようになるためにはどうすればよいのか。本書ではそんな「知る力」を鍛えるためのヒントや具体的な行動が説明されています。
今回は、「第三章「知る力」を鍛える」から引用しました。
2.底なし沼に沈んでいないか
ネットやTVで得たニュースはあくまでも「入口」であり、そこで知り得た情報を、使える知識として自分の血肉としていくためには、どうしてもそれなりの「手間暇をかける」ことが求められます。
そのために著者が行っているのは、毎日の新聞13紙の紙面チェックと毎日最低4店の書店巡りと読書だそうです。これはインプットだけの話です。一方、アウトプットとしては、大学の講義やTV番組の収録などの仕事の合間に毎月25本の連載の原稿を書いているそうです。
このインプットとアウトプットを支えるものとして、著者は、「それだけアウトプットが多いとなると、それ以上にインプットしなければ、すぐに書くことがなくなってしまう」と述べています。
そして「大事なのは、アウトプットを意識してインプットをするということ」とも述べています。「新聞や本も、ただ漫然と読むのではなく、そうした問題意識を持っているからこそ、さまざまな疑問が生まれ、それが形になっていく」のだといいます。
とはいえ、著者のように職業がジャーナリストでもない限り、いきなりこれだけのインプットとアウトプットをこなすことはハードルが高いでしょう。
インプットを真似しようとするだけでも1日24時間では足りなくなることが目に見えています。
そこで一つの提案として出てくるのが、「スマホの利用を最小限にする」ということです。著者はLINEやtwitterなどのSNSは一切やらず、その時間は本を読んだり、原稿を書く時間に充てているそうです。
私も電車通勤をしていますが、確かに、電車の中で本や新聞を読んでいる人の数と、スマホを触っている人の数を比べたら、間違いなくスマホを触っている人の数の方が多いと思います。
ここ10年程でスマホが一般的に普及する前までは、インターネットはパソコンから接続する方が当たり前でした。ただ、パソコンの場合は、満員電車の中では使うことができません。従って、電車の中でも、今よりも紙の新聞や本を読んでいる人の数は多かったと記憶しています。
パソコンでも、スマホでもインターネットが恐ろしいのは、特に意識せずとも「簡単に時間が過ぎてしまう」ということです。
インターネットのニュースサイトやまとめサイトの中には、 興味をそそられる、魅力的に思える情報が無限に溢れかえっています。 それらの情報は、あとから冷静に考えると自分には関係のない、限りなくどうでもよいことの方が多いものです。
そして、ひとたびその「情報の沼地」に足を踏み入れてしまうと、ずぶずぶと沈み込んでしまい、中々その泥沼から抜け出すことができなくなります。これはSNSの場合もそうですし、ゲームの場合もそうでしょう。
こうして、何より大切な「時間」と、自分の「認知能力」を知らず知らずの内に奪われていっているのです。私も散々経験しましたが、はっと我に返った時に残るのは、一時的な満足感と精神的な疲労感と「またやってしまった、、、」という後悔です。
3.情報を知識という力に変える
著者が心配しているように、スマホを含め他者に自分の「認知能力」を奪われている時間は、「自分の思考が停止している時間」です。
この時間が長くなるほど、ある意味「他者に騙されやすくなってしまう」とも言えると思います。
ですから、情報に触れた後は必ず、そのことについて自分で考えてみる時間が必要です。仮にその情報がフェイクニュースではなく事実だとしても、その情報を「自分はどう受け止めるべきなのか」を立ち止まって考えてみるのです。
これは、情報の発信者の「思惑」は何なのか?に対して常に疑いを持つ、ということでもあります。
そして、「疑問を持つ」ためには、発信者が発信した情報だけでは自分が判断を下す根拠となる「情報が足りない」ということに気づくはずです。
そこで1つのメディアだけではなく、他のメディアの情報にも意識的に触れる必要が出てきます。例えば情報収集をネットだけで済ませるのではなく、新聞や本も読んでみる、ということです。
そのような情報を収集し、統合していく中で、その情報に対する「自分の意見」というものが形成されていくでしょう。
自分の理解度は「人に説明してみる」ことで測ることができます。これは書くことよりも手軽にできるアウトプットです。
もし、うまく説明できない、言葉に詰まることがあったら、それは「自分の理解が足りない」ということです。従ってその点については追加でインプットを行う必要があります。
問題意識を持ち、アウトプットを意識して、インプットを行う。自分が理解できたかどうか、アウトプットしてみる。自分が理解できていない部分のインプットを付け足す。またアウトプットしてみる。この繰り返しによって徐々に「知る力」、「自分で考える力」をつけていくことができるのです。
「考えたりアウトプットするためには、ある程度まとまった時間が必要、でも、忙しくてなかなかそんな時間は取れない」と思われるかもしれません。今回引用した部分にもある通り、そのような意見に対して著者は「忙しいからこそ、すきま時間は考えることに使うべき」と述べています。
まとまった時間を見つけて、1回だけ考えるのではなく、ことあるごとに、たとえわずかな時間であっても、考える頻度を増やす。こうすることで断続的にでも考え続ける状態を生み出すことができますから、自ずから良いアイディアも浮かびやすくなります。
逆説的な考え方かもしれませんが、すき間時間、細切れ時間でアウトプットのために考え、そしてこの時間でアウトプットできるようになったとしたら、アウトプット能力だけでなく、情報を元に自分で考える力、情報を自分で判断する力を、飛躍的に高めていくことができるでしょう。
そうやって身につけた「知る力」は、日々私たちの「認知能力」を奪おうとする情報の洪水から私たち自身を守る「堤防」の役目を果たしてくれるようになると思います。
4.まとめ
・スマホの利用を最小限にして、情報について考える時間を持つ
・他者に自分の「認知能力」を奪われている時間は「思考停止」の時間
・問題意識を持ち、アウトプットの事を考えたインプットを行い、アウトプットする。これを繰り返すことで「知る力」を鍛えることができる
<今日の読書を行動に変えるための
個人的チャレンジシート>
1.この本を読んだ目的、ねらい
・分かりやすいニュースの裏側に隠された事象について学ぶ
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・ネットやTVの情報に踊らされないための「知る力」の鍛え方について学んだ
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・自分の分かったことを人に説明してアウトプット力を磨く
・週に1回は必ず書店に行き、世の中のトレンドや世間の関心について把握する
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・「知る力」が今よりも成長している
・すき間時間に考え、アウトプットすることができ、生産性が飛躍的に向上している
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