TED感想 ロボットは大学入試に合格できるか? 新井紀子

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<概要>

ロボットが東大に受かることができるのか?を検証するために人工知能「東ロボくん」を開発した研究者、新井紀子氏のTEDでの公演です。

現在の人工知能は探索と最適化は得意ですが、文章の読解はできません。人工知能は問題の文章を読んで、内容を理解しているわけではなく、検索の結果、多くヒットしたキーワードを「統計的に確からしい答え」として抽出しているそうです。

現在の人工知能は文章を読めないし、理解もできません。ですが、この「東ロボくん」と同じテストを受けた子供達の80%は「東ロボくん」よりも点数が低かったそうです。

そして人工知能が正解できた、問題文に答えが書いてあるような問題でも、同じ問題を解いた中学生の3分の1は間違えたとも。意味を理解できない人工知能に意味を理解できるはずの人間が負けてしまったのです。

これらの結果を受け、新井氏は、「丸暗記で意味を理解しない知識の詰め込み型の教育」に警鐘を鳴らされています。

1.課題は何か?

将来的に人工知能が文章の意味を理解できるようになるのかは分かりません。ただし、私たちの子供や孫の世代では今よりも人工知能が普及していることは間違いないでしょう。

そのような社会で、AIと人間が共存していく、AIに人間が使われないでいるためには、「文章の読解力」、「書かれていることの意味を理解する力」を高めておく必要があるでしょう。

このような力はどうすれば養うことができるでしょうか。

2.現状はどうか?

文章の読解力はある程度の長さで書かれた文章、つまり「本を読む」ことで身につけることができるでしょう。今の子供の読書量はどれくらいなのでしょうか。

文部科学省の公開資料、「子供の読書活動の推進等に関する調査研究(概要版)」(平成29年7月5日)によると、日本全国の小学4・5年生、中学、1・2年生、高校1・2年生、それぞれ約5000人、合計1万5千人に対するアンケート調査の結果、以下のような結果が得られました。

  • <子どもの読書活動について>
  • 読書時間、読書冊数ともに、学校段階・学年が上がるにつれて読まなくなる。(高校生では、全体の約4 割が、1 日に読書をまったくせず、また、1 か月に読んだ本が0 冊という状況)
  • 小説等の物語の本や、趣味に関する本がよく読まれている。
  • 本の内容を楽しむため、気分転換や暇つぶしのために本を読む児童・生徒が多い。
  • 自然科学・社会科学なども含み、幅広い分野・ジャンルの本を読むほうが読書冊数も多い。
  • 本を読まない理由として、「ふだんから本を読まないから」の回答は小学生・中学生・高校生いずれも3 割を超え、小学生では「どの本がおもしろいのかわからない」「文字を読むのが苦手」等、中学生では「面倒」「必要を感じない」等の回答割合が相対的に高い。高校生では「時間がなかったか
  • ら」との回答割合が高い。
  • <学校での体制・取組の状況や家庭環境と読書週間の関連性について>
  • 学校図書館の充実度が高い学校の児童・生徒ほど、平日に本を読まない割合が低く、また、読書冊数が多い。
  • 児童・生徒が本をよく読んでいる学校の特徴は、「学校として読書に関する計画を立てている」、「教職員に対する研修を実施している」、「学校司書が配置されている」、「学校図書館の活動等を支援する組織がある」、「児童・生徒から認識される充実度合いが高い学校図書館を整備している」、「読書週間でのイベントや一斉読書の時間の設定などの読書活動により力を入れている」という点である。
  • 家庭での蔵書数が多く、また、家族に本を買ってもらったり紹介してもらったりする児童・生徒のほうが本を読んでいる。
  • 小学生ではテレビ等を見る時間やゲームで遊ぶ時間が長いほど、中学生・高校生ではメール等をする時間が長いほど読書時間が短い。高校生では、部活動等の時間や、塾等に行く時間が長い生徒でも読書時間が短い。
  • マンガ・雑誌を読む時間や勉強・宿題をする時間が長い児童・生徒では読書時間も長く、これらの活動は読書時間を阻害しているわけではない。
  • <子供の読書活動と意識・行動等との関連性について>
  • 読書活動の度合いと子供の意識・行動等に関する得点との間には、正の関連性がある。
  • 読書活動と、意識・行動等に関する得点との間の正の関連性は、個人属性や家庭環境の違い、また、ふだんテレビを見る時間や勉強をする時間等の違いを考慮しても見られる。中学生・高校生では特に「論理的思考」について、読書をする生徒の得点が高い。
  • 過去の段階での読書習慣の有無も、意識・行動等に関する得点に関係している。小学生の段階で本をよく読んでいた中学生、中学生の段階で本をよく読んでいた高校生は、「論理的思考」「意欲・関心」「人間関係」等の面で得点が高い。
  • 小学生・中学生では、個人単位での比較だけでなく、読書に関する取組等が行われている学校に在籍している児童・生徒であるかという、学校単位での比較でも違いがある。

これらの結果を見ると、

・学年が上がるほど、本を読まなくなる(特に高校生では他の活動に時間を取られるため)

・学校や家庭の読書環境がどの程度整えられているかは、子供の読書習慣に影響する

・小学生→中学生、中学生→高校生など、ある程度の長期間に渡る読書の継続は子どもの意識や行動(「論理的思考」・「意欲・関心」、「他者理解」など)に良い影響を与える

といったことが分かります。

3.どうすればよいか?

AIに意思決定を完全に委ねてしまわないようにする

→そのためには、子どものうちから文章に慣れ親しんで読解力を高める

→そのためには、家庭・学校において子どもがさらに読書に親しみやすい環境を整えていく

ということが必要になるのではないか、と思いました。

特に幼少期のうちから読み聞かせをしたり、図書館、書店などに子どもを連れて行って本を読ませたりして、子どもにとって読書を「当たり前の習慣」にしておくことが大事なのではないかと思います。私自身を振り返ってみても、成長して大きくなるほど、子供は親の言うことを素直には聞けなくなるからです。

ただ、中学生になってからでも、友人が面白いという小説を借りてみて、そこから一気に読書に夢中になる、というようなこともあります。

最終的に読書が習慣化するかどうかは、子ども自身が自発的に本を読みたいと思うかどうかであり、大人が強制することはできません。

ですが、周りの環境に感化される、ということはあるでしょう。

例えば、小学校の朝の10分読書の取り組みなどは、クラスの生徒みんなが本を読んでいるため、自分も読まないわけにはいきません。

大人ができることは、そういった「子どもの周りの読書環境のデザイン」に尽きるのではないかと思いました。最終的に着火して読書に目覚めるかどうかは本人次第です。

でも、中長期に渡り「読書を続けるとこんなにいいことがあるんだよ(考える力がつく、とか人間関係が良くなる、とか)」ということは、いくらでも伝えておいた方がよいでしょう。もちろん、負の側面(例えば、本ばかり読んでいて行動しなくなる知識偏重の弊害など)も合わせて伝えておくのが良いでしょう。

あと、学年が上がるほど、本を読まなくなる、という問題について。

高校生になると、それまで読書好きであっても、学年が上がるほど受験勉強などの影響で読書時間は短くなります。この点については、大学入試制度の改革も必要になると思います。

あと、「通学時間」というのは結構重要だと思います。私は中学と高校は電車通学でしたので、その間片道40分くらいずっと小説を読んでいました。

ところが、大学生になって、大学から徒歩10分のアパートに下宿を借りたとたん、それまでのように本を読まなくなってしまったのです。

それから社会人になって再び電車通勤をするようになって読書習慣が復活しました。

電車での移動時間というのは「毎日、ある程度の量がある、固定された時間」なので、読書や勉強などの活動を行いやすいのです。

ですから、受験勉強などのように他にたくさんやらないといけないことがある中で、それでも「読書をしたい」という気持ちがあるならば、その時間はあらかじめ「天引き」しておくのが良いと思います。

「この時間は絶対にスマホでゲームしない」と決めるなど。大人でも、なかなかその誘惑に勝つのは難しいことですが。

4.まとめ

AIに人間が使われないためには子どもの「文章の読解力」を高めておく必要がある

文章の読解力を高めるためには「本を読むこと」が必要

子どもが本を自発的に読みたいと思えるような 「子どもの周りの読書環境のデザイン」 が大人には求められるのではないか

なお、新井氏は以下の本の中で、今回の公演の内容についてさらに深く言及されています。ご参考までにご紹介しておきます。

Posted by akaneko