書評『After Bitcoin』中島真志 著
<引用>
ビットコインの開発にあたって、開発者のナカモト氏は、多くの利用者が取引の検証作業を薄く広く分担して、利用者がみんなでビットコインの仕組みを支えていくといった、ややユートピア的な世界をイメージしていたように思われます。
しかし、実際には、ビットコインの実態は、そのようにはなっていません。前述のように、ビットコインの保有構造は、「上位1%の保有者が全体の9割を保有」、「上位3%の保有者が全体の97%を保有」といった形で、「一握りの人が独占している」と言える歪な保有構造となっています。
マイニングについても、大規模なマイニング・ファーム上位13社が8割ものシェアを占めており、特に中国の採掘集団が世界のマイニングの7割を担っている寡占状態となっています。このため、「分散的であったはずのビットコインは、ほんの一握りの人々によって管理されている」、「万里の長城の向こう側にマイニングの能力が集中している状態は問題であり、たった10人ほどの人々が牛耳っているビットコインに将来はない」と言われる状況になっています。
ビットコインの取引をみても、中国の3つの取引所における取引高が9割以上と圧倒的なシェアを占めています。まさに「中国人がマイニングして、中国人が売買し、中国人が保有するビットコイン」とも言えるような状態となっています。
「バブルは、毎回違う顔でやってくる」というのが特徴です。ある時は、不動産バブルであったり、株式バブルであったり、次は国債バブルであったり、さらには美術品バブルであったりします。一回バブルを経た資産は、しばらくは警戒されてバブルにはなりにくく、目先を変えて別の資産でバブルがやってくるという傾向があります。仮想通貨については、これまでバブルの洗礼を受けていないため、バブルのニューカマー(新参者)になる可能性を秘めています。
そして、専門家らしい人が現れて、値上がりを正当化するような理論を理路整然と唱え出したときが、特に危ないものとされています。つまり、「今回はこれまでとは違う」(This time is different)という、もっともらしい説が出てきたときが最も危ういのです。
日本銀行で長年リスク管理を担当してきた植村修一氏(大分県立芸術文化短期大学教授)は、近著の中で「いったん価格の持続的な上昇が見込まれれば、そこに参加することが合理的とみなされ、また、実際に利益を手にする人が現れれば、そのことが人々の射幸心やリスクテイク意欲をあおる」として、バブルが拡大していくプロセスを説明しています。
ある分野がブームになると、関連するものが見境なく何でも買われるというのは、バブル期の特徴です。
現在のICOについても、世界的なカネ余り現象の下で、「〇〇コイン」と名付ければ何でも飛ぶように売れるような状態であり、仮想通貨からの「派生バブル」として、「ICOバブル」が発生している可能性が高いものとみられます。
1. この本はどんな本か?
かつて日本銀行に勤めていた大学教授の著者がビットコインとそれを支える基盤技術であるブロックチェーンの将来性について、金融の専門家の立場から説明されています。著者の主張をざっとまとめると、
・ビットコインの将来性については疑問符がつく(理由の一つは、今回引用した前半部分の通り、保有構造、マイニング構造、取引構造の全てにおいて、ゆがんだ構造となっていて、幅広いユーザーを獲得できているわけではないこと。その他、発行上限の存在や、報酬の半減期など設計上の問題があること)
・その一方で、その基盤技術となっているブロックチェーンについては、金融の仕組みを根底から覆すかもしれない潜在力があり、インターネット以来最大の発明である
という見方をされています。
紹介されているブロックチェーンの応用事例については、著者の専門領域が金融分野であることもあり、銀行のデジタル通貨発行、国際送金や証券決済の分野などに限られています。図表が多用されていることと説明が丁寧になされていることから、金融分野に関する知識があまりない読者にも分かりやすいものとなっています。
また、本書における著者の主張として重要なものとして、
・管理主体のいない仮想通貨(パブリック型のブロックチェーン)ではなく、中央銀行によるデジタル通貨(プライベート型のブロックチェーン)が将来的には普及する
という予測がされています。理由は「人々がどちらを信頼するか」を考えれば明らかなことだと述べられています。
2. ブロックチェーンの適用の一例としてのビットコイン
ビットコインとブロックチェーンについては、昨今、ニュースで良く見聞きするようになりましたし、解説書も多数出版されていますので、ここであまり詳細には立ち入りません。
元々、ビットコインが2009年に登場した時の設計思想は「中央で管理する者がいない」「自由にやりとりができる通貨」というものでした。
管理者がいない、つまり国のお墨付きがついていない通貨は、ある意味「こども銀行」のお金のようなもので、このままでは誰も価値を認めず、利用する人が出てきません。
ビットコインを使った取引が、正当に行われたものであることを証明するために、ネットワークの参加者にはコンピュータで計算処理を行なってもらいます。その代わりに一番早く正しい計算を行ってくれた人にはビットコインを提供する、というインセンティブを与えます。
この計算量が膨大になるために、取引データそのものの改ざんは困難です。そのため、不正を働こうとするよりも積極的に取引を計算処理により支援して、ビットコインを入手する方が得である、と参加者に思わせて行動させることにより、「信頼できない者同士の間でも信頼を成り立たせることができる」というのが非常にざっくりしたブロックチェーンのシステムの説明です。
ビットコイン自体は今回引用した通り、インセンティブを得ようとして、一部にその所有が局在してしまったことや、マネーロンダリングの手段としての側面が注目されたこともあって、規制対象となり、これからは終息に向かうのではないか、という意見も多数あります。
(中国では2018年3月、インドでは4月に仮想通貨の取引を禁止した、というニュースがありました)
ただ、ビットコインを始めとした仮想通貨の土台となる技術であるブロックチェーンについては、その波及範囲が非常に広いため、今後、爆発的に発展していくのではないか、ということが言われています。
ブロックチェーンの仕組みとアイデアを基に、本書で紹介されている金融分野だけでなく、例えば、政治、エネルギー、音楽、アートなど、ありとあらゆる分野において現在進行形で応用のための開発が進められています。人工知能のように現在スタートアップ企業が多数登場している非常にホットな分野でもあります。
そう考えると、ビットコインは、あくまでブロックチェーンをこれから普及させるための「バグ出し」を行うためのものであったと考えることもできそうです。
3. バブルに学ぶ
今回引用した部分の後半は、「バブルの特徴」について書かれている所を抜粋しました。これは私たちが「金融資産に対しての」投資を考える時に、覚えておいて良いことだと思います。
ビットコインについてのバブルは、17世紀のオランダにおける「チューリップ・バブル」に似ているという話があります。この「チューリップ・バブル」というのは、せいぜい数百円程度の価値しかないチューリップの球根に、当時のオランダ人の平均年収の5倍以上、家が1軒立つくらいの値段がついた、というものです。1634年に始まり、1637年になって何の前触れもなく、いきなり価格が大暴落したそうです。
ビットコインの一時の急激な値上がり方は、このチューリップ・バブル時のチューリップの球根の値上がりのグラフ以上の傾きを示していたようです。
一歩引いた視点で、連日のように報道されるビットコインの当落を見つめるか、あるいは、「乗るしかない!このビッグウェーブに!」と考えるかは人それぞれです。
大きな不況はだいたい10年周期で訪れる、という話を聞いたことがありますが、この前のリーマンショックから早くも10年くらい経ってしまっているので、「もうそろそろ次の不況がくる」という備えをしておいた方が良いと個人的には思います。
では、そのような時に何に投資すれば良いでしょうか?これも良く言われていることですが、一番の投資は「金融資産への投資」ではなく、「自己投資」ですね。
どんな波が来ても巧みに乗り越えていけるように、自分の能力や組織としての能力を高めておきましょう。備えあれば憂いなしです。
私たちが乗るべき波はビットコインではなくブロックチェーンの方です。これは大きな技術的トレンドとしてまず間違いないでしょう。技術の進歩はこれから加速度的にスピードアップしていきそうです。
専門家でない私たちは、技術の厳密な詳細にまで、立ち入る必要はないと思います。
ですが、
「その技術によってどんなことができるようになるのか?」
「自分の仕事に対してその技術はどのような影響を与えそうか?」
「その技術によって社会はこれからどのように変わるのか?」
「そこで自分はどのように生きていくのか?」
といった質問には「自分自身の答えを用意しておく」こと。
そして、その答えを「絶えずアップデートしていく」ことが、
これからは求められると考えます。
歴史や哲学や美術などの教養に加えて、「技術に対する知見や想像力」も
これからは「新たな教養」として求められる時代になってくるでしょうね。
4. まとめ
・ブロックチェーンはインターネット以来最大の発明
・過去の歴史に学び、一度立ち止まって、熱狂を外から見つめてみよう
・技術に対する知見や想像力はこれからの時代の新たな教養
〈今日の読書を行動に変えるための個人的チャレンジシート〉
1.この本を読んだ目的、ねらい
・ビットコインとブロックチェーンに対する理解を深める
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・金融分野、デジタル通貨の発行に関する
各国の取り組みについての知識を得ることができた
・バブルの「兆し」を示す特徴について学ぶことができた
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・ブロックチェーンの適用範囲について考えて新しいビジネスのアイデアを出してみる
・自己投資と行動を続ける
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・ブロックチェーンについて人に基本から説明できるくらいになっている
・ブロックチェーンを用いた新しいビジネスのアイデアを2つ思いついている
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません