書評『企業の研究者をめざす皆さんへ』② 丸山宏 著

書評, 仕事術・働き方, 思考法・考え方, イノベーション

<引用>

技術者としてキャリア・アップするには、もちろん技術的に強いことは大切なのだが、それ以上に大切なのが、あなたの価値を周りの技術者に認めてもらうことなのだ。

上司に認められるだけでは少なくともIBMの中では技術者としてのキャリア・アップは望めないのだ。組織を越えて他の技術者仲間と協業し、会社やお客様の問題を解く。そのことによって「あいつは頼れる奴だ」という評判を得て、そしてコミュニティの中で尊敬されていく。そのことが結果的にキャリア・アップにつながる。

価値(value)のありかは変化していく。だから皆さん一人一人も自分のスキルを磨いて、新しい価値に対応して行かなければならないのだ。

ここでの「価値のありか」は、市場が何にお金を払うか、ということを指しています。ですから、私たち自身も、市場の変化に対応して、自分たちを磨いていかなければならないのだ、と思います。

部門の壁を越えて協業することは、結果的に自分のキャリアにプラスになるはずだし、また、長い自分の一生を考えれば、当然自分の技術分野も変えていかねばならないだろう。

「Don’t settle for anything」

現状に満足してしまったら進歩がない。常に次の一歩を探して生きよう。企業における従業員の価値は常に変わっていくものだ、ということを肝に銘じてもらいたい。

企業における研究は「面白いから」やるのではない。「必要だから」やるのだ。それが”Research that matters”の意味するところでもある。だから、新しい研究分野を提示されたら、特別な理由がない限り、「是非やらせてください」と言うべきなのだ。

研究者の仕事の大切な一つは、アイディアを生み出すことである。しかし、自分のオフィスで一人で考えているだけではなかなかアイディアは浮かんでこない。いろいろ他分野、他業種の人と交流することによって、イノベーションが生まれる。

さらに、企業の研究者にとっては、自分の技術が実際に使われる現場を見てくるということが極めて大切だ。現場を知っていれば、自分の技術に自信を持つことができる。新しい提案をする時でも、現場を知っているのと知っていないのでは、提案の迫力がまるで違う。

1.Don’t settle for anything

前回に引き続き『企業の研究者をめざす皆さんへ』の中から「研究者のキャリア」について書かれた部分の引用です。

この中で大切なこととして述べられていることの一つは、「変化し続けること」の重要性についてです。

変化し続けること、それを英語で「Don’t settle for anything」と表現されています。

「Don’t settle」は「落ち着くな、立ち止まるな」という意味になるでしょうから、この文章は、「どんなことに対しても立ち止まっていてはいけない」というニュアンスになるでしょうか。

何故、立ち止まってはいけないのでしょうか。その理由は、例え私たちが変化を望んでいなかったとしても、私たちの周りは今、こうしている間も絶えず、変化し続けているためです。

現状考えられるベストの考え方や行動は、明日には時代遅れのものに変わってしまっているかもしれません。

もちろん、自分の核となる考え方やスキル、知識、専門性を持ち、それを磨いていくことは重要です。

でも、おそらくそれだけでは不足しており、食わず嫌いをせずに、自分にとっての異分野に、新しいものごとに関心を持ち続けることが求められているのだと思います。

今、自分が持っている知識やスキルに、執着、固執しない。時代や世の中のニーズに応じて、持っている知識や、スキルを手放し、新たに学び、入れ替えていく。

私自身も社会人になった当初は、大学と大学院で学んだ専攻分野に直接関係する部門で研究開発の仕事を行っていました。ですが、その後、社会環境や市場の変化、そして会社が重点を置く事業が変わったことを受け、異動していく中で複数回、担当業務や研究開発を行う分野が変わってきています。

それは自分が望んだから、というよりは、会社からの指示があったから、つまり、今回引用した部分にある「必要だから」行っていたわけです。

ただし、専門知識も何も持たない異分野の業務に担当が変わったからといって、それまでに学んだことが全く使えない、ということはありません。

細かいところではありますが、全く別の分野の研究開発業務を行っている時に学んだことや身につけたスキルが、非常に役立っている、ということをこれまで何度も経験しています。

ある仕事を行っている時には、それが将来自分の役に立つとは到底思えない。でも、全く違う仕事をする時になって、当たり前のように依然学んだ仕事の考え方やスキルが無意識レベルで出てきて、役に立つ。スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での講演に出てくる「コネクティング・ザ・ドッツ(connecting the dots)」のようなことが起こるのです。

そしてそのような時に初めて、「あの時のアレ」に新しい価値を感じ、意味づけをすることができるようになるのです。

ですから、変化することを恐れないこと、現状にとらわれすぎないことは、とても大切なことだと思います。

2.「価値のありか」を探す

今回引用した部分で、もう一つ大切なこととして、「価値(value)のありかは変化していく」ということが述べられています。

また、価値のありかとは「市場が何にお金を払うか」を表しているそうです。

古い例になりますが、昔、ペットボトルに入った水なんて売れるわけがないと思われていたそうです。理由は、「無料でも飲めるものをわざわざ買ってまで飲む人はいない」と考えられていたからです。しかし実際には、ペットボトル入りのミネラルウォーターはスーパーでもコンビニでも非常に売れる商品になりました。

これは、水というものに「新しい価値」を付与した結果だと思います。

また、近年急速に普及している車などの「シェアリングサービス」は、「所有すること」に対する価値が薄まっていることを表しています。

そのように、時代や社会環境の変化の影響を受け、私たちの「価値観」も変化していきます。

問題は世の中の新しい価値観や価値の変化は、信号や道路標識のように誰が見ても分かる明確な形では表示されていない、ということです。

ではどうすれば、今、あるいは将来の価値のありかを見つけることができるのでしょうか。

それには、思いついたアイディアを次々と「市場に問いかける」こと、そして「問いかけ続けること」だと思います。

「問う」と何がしかのレスポンスが発生します。「反応がない」というのもレスポンスの一つです。そのレスポンスを受けて、また「問いかける」。またレスポンスが発生する。

そのような試行実験を日々、ひたすらと繰り返すことで、「どうやらこういうことかな」ということがおぼろげながら分かってきます。

つまりは「仮説検証」するということですが、この工程に終わりはありません。

何故ならば、時代・場所・社会状況など、様々な要因の影響を受けて、私たち自身もまた変化していき、何に重きを置くかが移り変わっていくからです。

従って、最初に戻りますが、

「Don’t settle for anything」

の姿勢が求められることになります。

3.まとめ

・「Don’t settle for anything」 立ち止まらずに動き続け、変化し続ける姿勢が大切

・「自分が面白いから」ではなく、「自分に求められているから」行動する。その結果、思いもよらぬ視点が得られることがある

・「市場が何にお金を払うか」という「価値のありか」は変わっていく。それを知るためには日々、仮説検証を繰り返していくことが必要

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Posted by akaneko