書評『2035年の世界』高城剛 著
<引用>
いま目に見えている風景や頭の中で考えていることが、すべて記録に残る時代がやってくる。それを可能にするのは、MEMS(マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)の進化だ。
MEMSは、機械や電子回路、センサーなどを集積した極小のデバイスのこと。これがより小型化・高度化すれば、脳の中に埋め込んで、脳の中で起きている反応を記録したり、それを通信機能で外に伝えることができるようになる。すなわち「ライフレコーダー」である。
自分の目に映っているものをデジタル処理して、映像データとしてクラウドにアップロードできるので、本社の人に「いま見えているものを送りますね」といえばいい。
ただ、見たものが基本すべてログとしても残るので、将来は浮気ができない。口では「仕事で遅くなった」とウソをつけるが、「じゃあ脳のログを見るからね」の一言でバレてしまう。
もちろん浮気だけではない。犯罪も含めて隠しごとができなくなるし、それ以前に人に危害を加えようと考えた時点でセンサーが反応して、自動的に警察に通報されるシステムができるかもしれない。
そうした世界が息苦しいと思うなら、電波が届かない圏外で暮らすしかない。脳ログ時代になると、このように誰にも干渉されない場所と時間がますます重要になってくるだろう。圏外こそが、21世紀の黄金なのだ。
<書評>
この本では、著者の方が世界中を旅して、いろいろな研究者や学者の方に会って話を聞いたことから考えたという100通りの未来が、「科学」や「政治」、「経済」などのジャンルごとに提示されています。
残念ながら、考える元になった情報源に関する情報は、紹介されていないのですが、それでも、わくわくするような、あるいはちょっと怖かったりするようなさまざまな未来の姿が示されています。これだけいろいろと考えられるこの著者の発想力は見習いたいと思いました。
それは、「何かひとつ“キーワード”を挙げて、その言葉から想像できる20年後の未来の姿を例示してください」という小論文の試験問題に対して、100本ノックを行ったような感じです。
このような取り組みをしていけば、未来予測の練習、想像力を鍛える練習ができそうです。そして多くの未来予測をしていけば、「下手な鉄砲も数打てば当たる」感じで、1つ、2つくらいは現実となるものも出てくると思われます。
それならば、そこから自分の打ち手を考えておくことも可能です。「もし未来Aが来るなら、自分は対策Aを取る」、「もし未来Bが来るなら、自分は対策Bを取る」のように。
想定される事象に対する自分の行動を考えておく、というパターンはまるで囲碁や将棋のようです。逆に言うと、これらのゲームは未来予測、読みの力を高める上で非常に有意義なものとなりそうです。
まずは未来のシナリオの仮説とそれに対する自分の行動をセットで複数考えておくようにする。そうすると、例えその予測が外れても、比較的柔軟に対応できるようになってくるのではないでしょうか。
脳のログを自動で取得できるようになれば、私たちは、ふと思いついたアイデアを忘れないように、その都度ノートにメモしていかなくてもよくなりそうです。後で「今日のアイデア」や「思いつき」などのキーワードを元に自分の脳内を「検索」することができるようになるのでしょう。
「アイデア」の検索の「期間指定」を「今日」から「この1カ月間」、「この1年間」などとしていけば、玉石混交ではあるでしょうが、多数の良いアイデアを発掘することができそうです。
「小学校時代」のアイデアを発掘してみるのは、なんだかちょっと恥ずかしい気がしますが、忘れてしまった「本当に自分のやりたかったこと」なんかも見つかる可能性がありますね。
そしてこの「脳内ログ検索」は、本文にも書かれている通り、自分以外の人の「脳内ログ」も当然見ることができるようになってしまうでしょう。「過去ログ」だけでなく「リアルタイム」で考えていることまで、人に読まれるようになると、もうそれは「読心術」、「超能力」と考えていた世界の現実化ですね。「思考盗聴」のハッキングも行われるのでしょうか。
そこから話が膨らんで、電波の届かない「圏外」こそが楽園になる、という主張はとても面白いと思いました。私たちはすでに日常的にインターネットが当たり前、スマホが当たり前の世界にどっぷり漬かってしまっています。とても便利なものですから、「電波の届かない領域」というのが、今ではとても不便なものに感じてしまいます。
でも、そんな現在の価値観が180°ひっくり返ってしまう。今の価値観では、スタバやタリーズのようなカフェでも「Wi-Fiが使えないと不便」という判断になってしまいます。が、将来は「圏外カフェ」に付加価値がついて流行るようになるのかもしれません。
私が子供の頃には、スマホも、もちろんインターネットもまだ無くて、でもそれで不便を感じていたかと言うと、そんなこともありませんでした。
社会の変化、自分の変化にともない、自分にとっての「当たり前」は更新されていきます。新たな価値を作り出そうと思ったら、そんな今の「当たり前」を疑ってみることから始めないといけないのかもしれませんね。
〈今日のチャレンジシート〉
1.この本を読んだ目的、ねらい
・想定される未来についての情報収集を行い、自分の仕事との接点を探す
2. 読んでよかったこと、感じたこと
・科学技術の進展により、今の価値観の転換が起こりうる、ということを学んだ
3. この本を読んで、自分は今から何をするか
・簡単なことから、近い将来の予測と、その時の自分の行動を考える練習をしてみる
4. 3か月後には何をするか、どうなっていたいか
・自分の望む未来を描きだし、それを実現するための行動量が倍増している
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